春風を白い自転車で 僕は追い越して行く
空色のシャツを翻し 初めての街に舞い降りた
離れ離れになるのは嫌だと泣きながら
しがみ付いて来た君の腕
ヒ・ラ・リ と桜が散る あの日の二人も散って行く
線路沿い揺れている薄紅色
錆び付いた看板の並ぶ商店街
踏み切りの向こう側 君の姿が見えたような気がして
ペダルを踏む いる筈もなく 風が通り過ぎた
光揺れてる 暖かな日で
真っ白い壁をくりぬいた 窓から西日が差して
ダンボールいっぱいの部屋を オレンジ色に染めてゆく
覚悟とか孤独とか少しの希望とか
詰め込んだ箱にもたれかけ
雀が鳴く声も知らずに テレビの光と僕の影
見慣れないこの道を走って行く
自転車も靴紐も街色になるまで
坂道の途中 僕を呼ぶ君の声聞こえたような気がして
振り向いてみる いる筈もなく 風が通り過ぎた
薄紫の風が通り過ぎた
全てのモノは変わりゆくモノなんだろう
この街も この夢も 君がいた時も
振り返る事が出来るのは
その場所を通り過ぎたから 歩き出しているから
麗しき春風が街を通りぬけ
線路沿い揺れている葉桜並木
そして僕は 今日もまた振り向きながら
長い坂の途中で君を思い出す なす術もなく 家路を歩く
夕暮れ色の風が通り過ぎた
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